天空の大道を想う

 茜色に染まった空が色を失う頃、西に輝く宵の明星から東に向かって3つの明るい星が連なる様子が見られる。西から、金星、木星、そして7月31日に最接近した火星である。これら惑星は、星座の中を各々刻々移動する。そこで、この景色も今年限定である。

 金星は、星々の中で最も明るい輝星で、木星はそれに次ぐ。ただ、今年は火星大接近の年であるため、その最接近前後は火星の輝きが木星を凌ぐ。3輝星が整列しているのだから目を惹かないはずがない。

 慣例的に、明るく目立つ星を1等星と呼ぶ。夏の夜空では、夏の大三角を形作る星や南の空に赤っぽく見られるさそり座のアンタレスがそうである。木星や火星の明るさに比べれば精彩を欠くが木星と火星の間には、土星も1等星の明るさで輝き星の連なりを補っている。あたかも原野に1本の大道が走っているかのようである。実は、これは偶然ではない。

 太陽系の天体は、太陽を中心にほぼ1枚の盤上を転がるように運動している。地球も月も同じ盤上を公転するため、地上から見た惑星や月、太陽は夜空の見えない道を辿るように動いていく。特に太陽の道筋を黄道、月のそれを白道と呼ぶが、各惑星の道筋も大きくは外れない。

 天空に惑星たちの連なりを感じることは、太陽系の姿を地上から意識したことに等しい。いわば、地上の夜景に連なる車の明かりを見て、見えない道路の存在を意識するようなものである。月が時折、大道の惑星たちを結ぶように足早に移動していく様子が、一層、想像を容易にしてくれているようで頼もしい。夜空を見上げて、宇宙の営みを想うことは、とても楽しい営みではないだろうか。

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金星の傍らを通りかかった月 (2018.7.16撮影)