星はすばる?

長く星空を舞台に仕事をしていると、「好きな星は何ですか?」と聞かれることがある。実は、私自身はあまり意識したことがなく、大概は答に窮してしまうのだが、みなさんはどうだろう。

今から千年程の昔、清少納言は、「星はすばる。ひこぼし。ゆうづつ。よばひ星、すこしをかし。」と枕草子に記した。清少納言にとっては、何をおいてもすばるが一番だった訳だ。

枕草子と言えば、冒頭の「春はあけぼの」に続く四季の段を中学校で学んだ人も多いだろう。四季の段に現代の私たちが共感を持つことから推し量ると、「星はすばる」という気持ちも、少なくとも平安の都においては誰にとっても的外れなものではなかったように思う。

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にも関わらず、今の私たちにはすばるの美しさを感じることが少ない。これは、すばるの姿が千年の間変わっていないのに対し、背景の夜空が明るくなってしまったからだ。輝星の多い冬の夜空にあって、なぜ微かな存在のすばる清少納言が選んだのか。答えは満天の星を見上げれば実感される。他の星たちが独立した存在であるのに対して、微妙な明るさの星たちが絶妙な範囲に集まる姿に自然に目が行く。このことは、古代より中国でもインドでもすばるが独立した大切な星として扱われていたことからも納得される。さらに、日本では冷たい冬の空気の中にあって、明るい星がキラキラ冷たく輝くのに対して、ぼんやりと見られるすばるには他にない暖かさすら感じられる。やはり、星はすばるなのである。

1月上旬の20時頃、頭上を見上げて欲しい。今も澄んだ冬の夜空なら、ぼんやり光るすばるにはっとさせられるかもしれない。

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オリオン座からすばるまで